――『陽はまた昇る』という日本映画があります。SONYのβに対抗して日本ビクターで家庭用VHSを開発した人たちの話で『GODZILLA』(2014)にも出演している渡辺謙が技術者の役で出演しています。この作品は有名なキャストがたくさん出演していて、黒澤明監督の作品によく出演していた仲代達矢もパナソニックの会長・松下幸之助を演じています。当時TVで人気だった「プロジェクトX」という隠れたサクセスを紹介するTV番組があって、その路線を狙った企画だったと思うんですが。英語版はあるのかな。ぜひ観て欲しいなぁ。
通訳・井上 (スマホで検索した画面を見て)このジャケット知っています。
JJ これは絶対観なければならない映画ですね!
−―2002年の公開作品ですね。主演は西田敏行です。この話でこんな時間とっていいのかな(笑)。ちょっと話題をかえましょう。こんな広告もありました。(当時のVHSの販促チラシをファイルから出す)。 映画の中にもTVCMが取り上げられていて、資料的にも面白いですね。
JJ 日本のものでジャネット・ジャクソンが出演していたり、実はもっとたくさん選択肢はあったんですけどね。
――ジョージ・ルーカスがパナソニックのCMをずっとやっていましたよ!あと水野晴郎が出てくるのも、ある世代にはたまらないものがあります。『VHSテープを巻き戻せ!』では、ビデオを中心とする映画文化はもちろん、家電を含む生活文化まで描いていると思います。
JJ VHSの技術革新と文化的な面と両面を描き出したかったんです。情報過多になってはいけませんが、人々の生活の中にどうビデオが存在していたのか、上手く情報を入れ込んでいきたいと思っていました。アメリカでは、著名人が電気機器のCMに出演するということがほとんどないんです。どちらかというと商品のコンセプトや機能性をアピールすることが重要だと考えているようです。
――僕は仕事で映写や上映作品のプログラムを組んだりしています。映像素材は様々です。フィルムもデジタルもそれぞれに良いところがあると感じています。
JJ おっしゃる通りです。デジタル化でクオリティが上がることもあると思いますし、35mmのフィルムが物質として存在していることは重要です。誤解しないでほしいんですが、僕も映画監督としてデジタル化や技術の進歩には本当にワクワクしているんです。いままでアクセスできなかったものに到達できることへの可能性を感じています。ただこの先他のフォーマットと同じように、この子たち(テーブルに並んだVHSテープを指して)を視聴できるような環境も整えておくことは大事だと思っています。
――ダウンロードは便利な反面、管理を別の人間やシステムに委ねてしまうので「自由さ」が無くなっていくのではないかと危惧しています。VHSは物質として、またそこに収録されている映像を所有するということにおいて、個人の「自由」が保証されている気がします。
JJ そう思います。もっと若いこれからの世代のひとは、所有することよりも簡単さ・便利さに魅力を感じるのかも知れませんね。これから数年のうちに、映画ファンがVHSをアーカイブすることの重要性を感じて何かアクションを起こすのか、それとも淘汰が進み無くなってしまうのか、非常に興味があります。僕がVHSを所有することの楽しさを感じる最後の世代になるかも……
――実体ということだと、映画にもありましたが、繰り返し見られた箇所が損傷してテープに線が入る、ノイズが出るというところも面白いですよね。見ている人間の行為が、物質そのものに影響を与えてしまう。
JJ 僕も含めてアナログのメディアが好きな人というのは、そのものと一方向ではなくて双方向で関係しているというか、影響を与え合っているというか、VHSのノイズやレコードの傷など、自分だけの痕跡が残るということに魅力を感じている人が多い気がします。相手が電子機器であっても強いつながりができるんだと思います。
――映画にも出演されています高橋洋さんの作品で『リング』(98)の脚本がありますが、あれは映画と人との関わり方のメタファーだと思うんです。特に『リング2』(99)は原作なしの高橋さんオリジナル脚本で、呪いに憑りつかれた人間がビデオの映像をアウトプットするというものなんですが、いまのお話にもあった映像と影響し合うということが高橋さんの実体験から発想されている気がします。DVDはもう少しクールというか、VHSに感じる人との密接な関わりというものが感じられないんですよね。
JJ 千浦さんのおっしゃったメタファーを僕も『リング』に感じていました。ですから是非関係者にはお話を訊きたかったんです。高橋さんがインタビューを受けてくださって本当にうれしかった。メディアが人の生活や精神に影響を与えていって、何か思いもよらない変化が起きる。デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ビデオドローム』(82)にも共通するものがあると思います。
――『映画史』(89)を制作したJ・L・ゴダールにも影響を与えたといわれているギー・ドゥボールの「スペクタクルの社会」と映画『「スペクタクルの社会」に関してこれまでになされた毀誉褒貶相半ばする全評価に対する反駁』。この理論家・映画作家がいうことと『VHSテープを巻き戻せ!』は関係があるように思いました。彼の提唱する既存のものを自由に転用するという発想とビデオ文化。現代社会でイメージにひとがやられちゃっているとか、フェティッシュにモノを買わされることへの警告などです。しかし『VHSテープを巻き戻せ!』の登場者たちは、ビデオマニアであるがゆえにそこからはみでる奇妙で魅力的な感性を身につけている。
JJ ギー・ドゥボールのコンセプトは、非常に多くのひとに影響を与えていると思います。コピーをすること自体が安く簡単に自宅でできてしまう、一旦自分の手に入ってしまえばコントロールできてしまう。その自由さと可能性は魅力的だし、危険でもあると思います。
――確かに難しいところはありますね。自由で新しい表現や活動が拡がるということもあるし、悪用される可能性もある。
JJ 海賊版の問題も大概のひとは自覚がない気もします。法整備はもちろん必要ですが、メディアの進化と同様に私たちの意識を変えていく必要があると思います。
本質的は面白さ、自由さは、そこにある気がします。
――今回『VHSテープを巻き戻せ!』にインスパイアされて、改めていろいろなことを思い出したり考えたりすることができて、感謝しています。実はワイフがビデオ捨てろというので、「VHSはケースが大きいから家具になる、これで子供を遊ばせる」と抵抗するけど怒られるばっかりで(笑)。
JJ 千浦さん、ファイトです!でも娘さんが大きくなった頃に、映像メディアがどうなっているのか楽しみですね。未来はまさにいまのこどもたちが作りあげていきますから。
【作品情報】
『VHSテープを巻き戻せ!』
(2013年/アメリカ/91分)
監督・脚本・原案:ジョシュ・ジョンソン
製作:キャロリー・ミッチェル
撮影・編集・音響:クリストファー・パルマー
エグゼクティブ・プロデューサー:フレディ・フィラーズ、パノス・コスマトス
出演:アトム・エゴヤン、ジェイソン・アイズナー、フランク・ヘネンロッター、ロイド・カウフマン、カサンドラ・ピーターソン、押井守、高橋洋、千葉善紀、加藤和夫、藤木TDC、中原翔子、いまおかしんじ、バクシーシ山下 ほか
協力:ローデッド・フィルムズ
配給・宣伝:UPLINK
宣伝:contrail
公式サイト:http://uplink.co.jp/vhs/
渋谷アップリンクにて絶賛上映中!
http://www.uplink.co.jp/movie/2014/28559
「VHSテープを巻き戻せ!それから持ってこい!」割引キャンペーン開催中!
劇場に最初まできちんと巻き戻したVHSテープをご持参のお客様は、
通常一般価格¥1,500のところ¥1,300でご鑑賞いただけます。
※渋谷アップリンクのみ有効です。ほかの劇場は直接お問い合わせください。
京都:立誠シネマプロジェクト
愛知:名古屋シネマテーク
ともに8月30日(土)より公開
以降の上映情報は、公式サイトをご参照ください。